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特別講座「ことばと人間を自然科学する」開催レポート

(2019年 4月 9日)

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2019年3月21日(木・祝)にすみだリバーサイドホールで、特別講座「ことばと人間を自然科学する」を開催しました。

当日は、ヒッポファミリークラブの研究協力者である中村桂子先生(JT生命誌研究館 館長)と酒井邦嘉先生(東京大学大学院総合文化研究科 教授)のお二人をお招きし、講義をしていただきました。専門的なお話を小さな子どもでも興味が持てるようにお話いただける機会ということで、家族で参加する方が多くみられました。

中村先生の講義は、「ふつうのおんなの子のちから」と題され、同タイトルの著書に込められた思いについてお話しされました。どうしてこの本を書こうと思ったのかというお話から始まり、地球上にはあらゆるところに無数の生き物が存在し人間もその中の一つであること、どんな生き物も細胞からできている仲間であることが細胞の働きや仕組みとともに解説されました。その中でも、人間はことばと固有の3つの能力(想像力、分かち合う心、世代を越えた助け合い)を使い助け合いながら生きてきたことが紹介され、その姿が本来の生き方だとお話しされました。講義の後半には、ご自身の戦争体験を交えながら改めて「ふつうのおんなの子」について語られ、人間とは何かという問題を提起するとともに、「生き物として豊かに、細胞のように上手く生きませんか」というメッセージが投げかけられました。

質疑応答コーナーでは、アメリカへの留学経験をもつ大学生から「今後、どういう気持ちを大切に世界の人たちと関わっていくべきか」という質問がありました。それに対して中村先生は、「人間のDNAを調べたら世界中の人々に違いはなく、種としては一つだということが明らかにされている。違うところに住む人を考え方の違いから差別するのはおかしい、根は同じであるという気持ちが大切だ」と話されました。

酒井先生の講義「多言語の科学」では、冒頭で生得性の正しい認識が紹介さた後、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーの言語生得説や統治構造論に基づいて講義が展開されました。生得性を知らないことによって、人間に本来備わっている能力で習得できることばについても教育や訓練で身につけるという発想に固執し、学校で教えられる文法以外は存在しないかのように捉えてしまうなどの問題を生じさせていることを指摘されました。また、子どもに日本語と英語を同時に学ばせると混乱するという発想は誤解であり、事実としてバイリンガルやトライリンガルが存在すること、外国語に限らず方言や男性が使う言葉・女性が使う言葉、日常語・敬語など、両親が全く同じことばを話していなくてもその違いに子どもが混乱することはないことを解説されました。「『2より3以上』という哲学」というお話では、2言語より3言語以上の多言語が習得しやすい理由を紹介され、同様に何かを学ぶときにも先生と生徒という2者ではなく親も一緒に学習に参加して3者以上の環境を作ることの重要性を説かれました。

小学1年生の男の子からあがった「酒井先生はなんで本をいっぱい書いたのですか?」という素朴な疑問には、「もともと本が好きだったので本を書くのが夢だった」という回答に加え、手書きの大切さについても紹介されました。「手で書いていると全部聞き取って書こうとは思わないがキーボードだと全部書きとってしまい、受け身モードになって考えなくなる。手を動かして考えて書くというのも大事なポイントで、脳にとっては考えるという余裕が大事。本を繰り返し読む余裕も大事」だと話されました。

ヒッポファミリークラブでは、専門家をお招きした特別講座を定期的に開催しています。

<特別講座「ことばと人間を自然科学する」開催概要>
■日時:3月21日(木・祝)10 :30 ~16 :00
■場所:すみだリバーサイドホル(東京都墨田区吾妻橋 1-23 -20)
■講座内容
 10:30~12:30 中村桂子 JT 生命誌研究館 館長「ふつうのおんな子ちから」
 14:00~16:00 酒井邦嘉 東京大学院総合文化研究科 教授「多言語の科学」


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