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多言語教育の最新事情を伝えるシンポジウム開催

(2019年 3月 29日)

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2019年3月13日(水)、アルカディア市ヶ谷 私学会館で、多言語教育の最新事情を伝えるシンポジウムが開催されました。ことばの習得や外国語教育、多言語活動の取り組みについて各分野の有識者や専門家が講演を行い、教育現場の先生方やヒッポファミリークラブの会員を中心に250人が聴講に訪れました。

基調講演では、言語学・多言語獲得研究の第一人者であるマサチューセッツ工科大学のスザンヌ・フリン教授が「人間の言語能力は無限」と題し、人間の言語や脳、多言語習得に関して解明されていることと誤解の15項目を発表しました。人間の言語は基本的に一つであること、すなわち日本語や英語、方言といったいくつかの言葉があっても、その核となる部分において同じ基本的性質を共有しているという点がまず強調されました。また、言語習得の臨界期説(ある年齢までは新しい言語を習得できるが、それ以降はできないという説)は誤りであること、習得にかかる時間は年齢に応じて変わるが、人は年齢に関係なく新しい言語を習得できることも紹介されました。よく聞かれる「同時に複数の言語を習得しようとすると混乱する」という考え方が誤りであること、多言語使用が人間の知能(知性)にとって自然な状態である、といった内容が語られました。

 いっぽう東京大学大学院の酒井邦嘉教授は、言語脳科学の立場から、環境があれば人間の脳は初めから多言語を獲得できるようにデザインされていると強調されました。フリン教授と同じく、「同時に習得できる言語は一つだけで、同時に複数の言語を習得しようとすれば混乱する」という考え方が誤りで、違う言語を話す両親のもとで育った子どもは、両親の言葉が違うことを自然に受け入れ混同することはない、それは基本的に人間の言語は一つだからである、と解説されました。また、教育現場の先生方に向けて、言語獲得は教育や訓練ではなく、人間本来の生得性を大切にすべきだと説きました。

フリン教授と酒井教授、ヒッポファミリークラブ(一般財団法人 言語交流研究所)は、多言語習得のメカニズムと効果を脳科学的に調査するプロジェクトを2016年に開始しており、今回講演された内容にはこの共同研究も一部反映されています。

教育現場からの報告では、中学や大学の英語の授業で多言語活動を導入し成功した事例が2人の元教師から紹介されました。「多言語をやれば英語も楽ちん」という状況が生まれたことや、「生徒の許容度・受容度が高く、教師もリラックスして『楽しもう』と思えた」という心境が共有されました。
また、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスで昨年12月に行われた「多言語コミュニケーション実践・特別講義」の様子が、現在ヒッポファミリークラブでインターンをしている大学生から紹介されました。

仙台にある尚絅学院大学の森田明彦教授からは、多言語活動は英語教育をより効果的なものにするという考えや、現代社会学科の授業「グローバルソサエティ論」で試験的に多言語活動を導入してきた結果、今春より同大学において正規の授業として実施が決定したことが報告されました。先の学校事例とあわせ、言語の習得には主体的な深い学びが不可欠であり、人が自然に言葉を獲得していく体験を大学の授業としても実施できる実例を共有することができました。

アメリカ在住のレッドランズ大学の大和田康之名誉教授は、医療機関などで発せられる公的な情報は英語を含めて18カ国語でアナウンスされている、というアメリカの多言語事情を伝えたうえで、日本もすでに多言語社会であることを認識すべきだ、と唱えました。

シンポジウムの締めくくりとして、言語交流研究所の鈴木堅史代表理事が、ことばの自然習得において欠かせない、自然にいろいろなことばが聞こえてくる「環境づくり」の大切さを訴えました。

終了後のアンケートには以下のような参加者の感想が寄せられました。
「言語について本質的なところを考えるきっかけになった」(30代女性・教職員)
「言語は教育や訓練からは獲得できないということばが印象に残った」(60代以上女性・教職員)
「言語の自然習得の重要性がわかった」(30代女性・会社員、60代以上女性・教職員)
「授業の事例は大変参考になった、自分の授業にも取り入れてみたい」(20代女性・教職員)
「なぜ自分が英語が苦手なのかがわかった」(40代女性・会社員)
「言語習得に年齢は関係ない、という点に希望が持てた」(20代女性・会社員)

多言語教育を提唱するヒッポファミリークラブは、40校以上の公立小学校において、「総合的な学習の時間」として国際理解授業を実施するなど、教育現場での言語習得に深く関わってきております。人間本来の、生得的に言語を自然に獲得していく力を引き出すプログラムを、学校の先生方と協力しながら今後さらに広めていきたいと考えています。

<教育シンポジウム「グローバル社会における多言語の可能性」 開催概要>
■日   時:2019年3月13日(水)19:00~21:00
■場   所:アルカディア市ヶ谷 私学会館(東京都千代田区)
■プログラム:
基調講演 スザンヌ・フリン マサチューセッツ工科大学教授 「人間の言語能力は無限」
各界の専門家による研究および事例報告
酒井邦嘉 東京大学大学院総合文化研究科 教授 「脳に自然なことばの習得とは?」
大和田康之 レッドランズ大学 名誉教授/EngageAsia財団 理事 「言語とコミュニケーション」
森田明彦 尚絅学院大学現代社会学科 教授 「大学での多言語コミュニケーション授業」
鈴木堅史 言語交流研究所 代表理事 「多言語の多様な音の波に浸る」
他、元・公立中学校の校長、大学教員、ヒッポファミリークラブ会員による活動紹介など


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