2014年 春のオープントラカレ講座|各種報告|ヒッポファミリークラブ
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各種報告

春のオープントラカレ講座が開催され、今年は0歳から親子で一緒に参加できる講座が3講座に増え、たくさんの参加者をむかえての会となりました。
≪プログラム≫
3月21日(金祝)AM 酒井邦嘉さん 言語脳科学~東京大学大学院総合文化研究所/教授
『脳の冒険~脳でわかるサイエンスシリーズ』
3月23日(日) AM 南繁行さん  電磁気学~大阪市立大学複合先端研究機構特任教授
『エネルギーと人間』
PM 坂田明さん ミュージシャン
『ことばと音楽はいつも仲良し』
3月24日(月) AM 岩田誠さん 神経内科学~東京女子医科大学名誉教授
『ヒトの足はなんのためにあるの?』
PM 中村桂子さん 生命科学~JT生命誌研究館館長
『小さな生きものが教えてくれること』
3月25日(火) AM 山崎和夫さん 理論物理学~京都大学名誉教授
『量子力学~部分と全体』
PM 古澤力さん バイオ情報工学~理化学研究所 生命システム研究センター
『生物らしさの理解へ向けて、ゆらぎと進化について』

▼酒井先生の講座は、渋谷区文化総合センター大和田で行われました。
小さいこどもたちも、先生の絵本を抱えて、講座に参加。
こどもたちからの質問は本当にするどくて、先生もびっくり!
講座の内容を、このページの最後にダイジェスト版でご紹介してます。

▼南先生は、エネルギーと人間というテーマでお話しくださいました。
エネルギーとはいったいどういうもので、どう使われていったらよいのかというお話から
理学と工学の話まで、科学者の視点をお話ししていただきました。

▼坂田明さんは、インドの音楽やモンゴルのホーミーなど、音楽のつながりのお話しから、
人間の価値観や思い込み、エントロピーの法則から逃れられない人間と諸行無常の話など、
坂田ワールド全開の講座でした。平家物語の演奏は圧巻。

▼岩田誠さんは、ヒトの進化や動物の体肢に比較から人間の足について、
また立ち上がることによって発達した脳について話してくださいました。

▼山崎先生は、若い頃ドイツの物理学者ハイゼンベルクのもとで、量子力学の研究をされていました。
ハイゼンベルクの自伝的書物「部分と全体」を和訳されたことから、
なぜハイゼンベルクが部分と全体というタイトルをつけたのか40年を経てわかったことを、
量子力学や当時の研究者の様子を交えて話してくださいました。

▼中村桂子さんは、アゲハチョウが足の先に人間の鼻のような役割をする感覚毛があり
産卵する際に植物を選んでいること、
また卵から出てくるときに親と全然違う姿で生まれてくること、
その後サナギになり、蝶になり、その都度体の形が変わることの不思議。
またエダマメはスーパーで買うと食べ物だけど、自分で育てると生きものなんだということを
「愛ずる」ことの大切さとともに話してくださいました。

▼古澤力さんは、バイオ情報工学を研究されています。
生きものは「ゆらぎ」があるから突然変異が出てそこから進化をしてきたこと、
大腸菌にも個性があることなど、大腸菌の実験室進化実験のことを交えて話してくださいました。
実験で、変異を与える前にどれだけゆらぎを持っているのかが、
その生きものの本質であるという話が印象的でした。

REPORT~酒井邦嘉さんの講座より
サイエンスシリーズは「ことば」から始まり、前回は「心」、そして今回は「脳」へと続きます。ことばは私たちにとってとても身近なものです。でも心は目に見えないので想像するしかないものです。そして脳もふつうは見えないものです。確かにMRIで見ることはできるけれど、見ただけではわかりません。そういう意味で難しいものだと思いますが、一緒に考えてもらいたいことです、という先生のことばから講座が始まりました。

脳ってなんだろうと考える前に、脳がない生きものがいることを知っていましたか?酒井先生によると、目のない生きものは脳がないそうです。たとえばヒトデやクラゲには目がないので脳がありません。あんなに海の中を自由に動いて生きている姿は、脳がないなんて考えられないけれど、神経で動いているそうです。
目は脳の入り口で、さまざまな情報が目を通して脳に入ってくるわけです。その目、とくに人間の目は球の形をしてるので、脳には球を通して見たように真ん中が盛り上がりゆがんで見えています。またレンズが一つしかないので、左右上下も逆に映っているのです。でも私たちは、まっすぐのものはまっすぐに、直角もちゃんと直角に見えるし、左右上下も合って見えています。脳が補正して見させてくれているのです。

酒井先生が好きな科学者の一人にラモン・イ・カハールという人がいます。もともと画家志望だったカハールは、いやいや医学部に進みますが、そこで解剖学のスケッチに引き付けられ、顕微鏡を通して見える細胞の世界を描くことになっていきます。その精密さといったら、強い光を当てないと見えない細胞の核までスケッチしてしまうのです。核が見えていたカハールは脳の細胞が神経細胞(ニューロン)を単位にして構成されているという「ニューロン説」を唱えます。一方、ゴルジ法という細胞を染める方法をあみ出したゴルジは脳の神経は網状でつながってできている「網状説」を唱え、論争を巻き起こしました。この決着は50年後に、電子顕微鏡の登場で解決します。カハールのニューロン説が正しいことが証明されました。カハールは、スケッチが精密であるばかりでなく、目には見えないはずの機能も書き入れていました。脳の海馬のスケッチでは、脳がどう働くのか電気の流れを矢印で書き入れています。酒井先生は、このカハールの矢印を見た瞬間、鳥肌がたって脳科学の道にすすもうと決めたそうです。
なぜカハールは、この矢印(電気の流れ)がわかったのでしょうか。脳のどこを調べたのかというと、それは目でした。脳の中では、エネルギーの分配がうまくて必要なところにだけ酸素やエネルギーが分配されます。必要な血管が太くなり、流れがたくさんになるので、視神経の方向を見ることで脳の働きが見えたわけなのです。目には構造だけしか映らなくても、徹底的に観察することでその機能までがわかるようになったのです。

人間は同じ情報を与えられても、違うことを考え、思い描きます。それはそれぞれ、「心」が違うから。自分と違うことを考える人を、そういう人もいるんだ、いろんな考え方をする人がいるんだと思うことが大事です。今、グローバル化ということばで一つのことを押し付けられている現実がありますが、真のグローバル化というのは多様なことの共存であり、違う考えの人がいくらでもいることへの理解ではないでしょうか。そう講座を結んだ酒井先生の、脳(人間)への深い探求の心と、大好きなことへの尽きない興味などに触れることのできた時間でした。