TOP > ヒッポの活動を応援してくださっている先生方

ヒッポの活動を応援してくださっている先生方

多言語について

Suzanne Flynn

( スザンヌ フリン )

マサチューセッツ工科大学 教授(言語学 多言語獲得研究)
LEX America 理事、言語交流研究所 研究協力者

2008年5月講演録

幼少のころから、私は英語以外のことばを話す人に関心を持っていました。中でも、私が何より興味を持ったことは、一人の人が2つ以上のことばを話せるという事実でした。私の育った家庭では基本的に英語のみが話されていましたが、私の祖父母は2ヵ国語以上話すことができました。ただ、私たちは祖父母のことばを話すことが許されなかったのです。私の家族は、ほとんどの家族がそうであるように、アメリカ文化に溶け込み、「アメリカ人」になることを望んでいました。そして、「アメリカ人」になるということは、英語のみを話すということだったのです。

私はこのことを、とてつもない損失と考え、米国での一言語主義に失望し続けていました。ですから、私は一人の人が一生を通して新たなことばを習得することが可能かどうかを研究し、解明することを仕事にしようと決めたのです。例えば、10歳を過ぎた人が新たなことばを話すことは可能なのでしょうか。このことを焦点に私は研究を続けてきました。そして今回、その研究を通して学んだ6つの基本的なことを是非皆さんと共有したいと思います。皆さんはきっとこれらのことを理解し、共感して下さるのではないでしょうか。もしくは、既にご存知かも知れません。

1. まず初めに、ことばを話すということは、人間特有の能力です。この能力が、人類と地球上に生息する他のいかなる生物との大きな違いといえるでしょう。

2. 第二に、これは以前から言われていることですが、多言語を話すということは、自然なことです。人間の言語能力は無限です!一人の人が習得できる言語数に限りはありません。一人の人が2言語以上話すということは、どのことばも中途半端ということではありません。実際にはありませんが、もしこの世に百万のことばが存在するのであれば、百万のことばを習得することもできるのです。

3. 第三に、人は誰でも新しい言語を習得することができます。母(国)語を話すことができる人なら誰でも、新しい言語を話すことができるのです。臨界期という、一定の年齢を過ぎたら新たにことばを学ぶことができなくなるというようなものはないのです。

4. 新しいことばを習得するには、自然な方法が一番の近道です。赤ちゃんや小さな子供たちが母(国)語を習得する時の環境や、またはそれにできる限り近い条件づくりが、新しいことばを習得する最適な方法なのです。その条件というのは、ことばを習得する人がほめられ、励まされ、自然な音をたくさん聞くことができ、そして強制されることなく、点数をつけられることもない環境のセッティングだといえるでしょう。

5. たくさんのことばを話す人ほど、新しいことばをよりやさしく習得することができます。これは、新しいことばを習得する時、すでに知っていることばが土台になるからです。言語の違いというのは限られています。ある範囲のことばが話せるようになると、その他のことばは、全てすでに知っていることばのバリエーションに過ぎない、人間のことばというのは、皆さんもすでに気づかれているように一つなのです。

6. これは私の研究から直接分かったことではありませんが、ことばは習得すればするほど、世界は狭くなり、世界や世界中の人々への理解が深くなるということは事実です。

これが、私がこの研究を30年間続けて来て学んだことです。2年ほど前、LEX America  Boston office のエリザベスが初めて連絡をしてくれた時に、これらと同じ理論にLEX  Institute/Hippo のプログラムが基づいていることを知り、大変驚きました。LEX/Hippo の代表理事の榊原陽氏は、私たちの研究が発表される以前から既にこれらのことを明察されており、そして彼がこのヒッポプログラムを通して取り組まれていることは、私たちの経験からくる研究内容をまさに裏打ちしています。そして皆さん全員が、そのことを実証されている証人と言えます。

あといくつか、既にご存知のものもあるかも知れませんが、多言語人間であることにより生まれる素晴らしい影響についてお話させて下さい。多言語は人の知性を伸ばします。多言語を話す人は全体的に、抽象的思考に優れています。 例えば、数学が得意であり、比喩的なことばの扱いも大変上手です。そしてこの特徴は、例えば90歳になって新たなことばを習得し始めた場合でも変わりません。多言語を話す人は、注意力、集中力、目標に向かって持続して進む能力に長けています。人の話を聞く時も、他の雑音を消して聞くことができるのです。 また、多言語を話すことで若さを保つことも可能です。多言語人間は認知症になる可能性が低いことがわかっています。まだその理由は解明されていませんが、多くの言語を話し続けることにより、年齢による認識の衰えを阻止できるのです。

ヒッポでは、私が研究を通して重要であると学び分かって来たこと全てが取り入れられています。ヒッポは、私が自分自身でプログラムを企画するとしたらそうしたに違いない、完璧な例です。驚くべき程に素晴らしいことです! 私が最も感動したことは、皆さんが新しいことばを学びあいながら創り上げて来たその調和、そして皆さん全員がいかに人に開かれ、そして優しい心を持っているか。本当に素晴らしいです。この心が開かれているグループとしての集まりと、ひとりひとりが誰をも受け入れることのできる力が、人に対する寛容の心という意味で、また、それ以上の意味でとても大きなものだと思います。このことは、新しいことばを習得していくことのみでなく、他の分野においても皆さんの力が育っていく自信になると思います。皆さんがこのグループの一員であることにより、自分自身の自信の力も増していくのです。

私にこの活動に参加する機会を与えて下さった皆さんに、心から感謝申し上げます。 Extraordinaryということば以外に何と言ったら良いか分りません。この活動に参加されてる皆さんは、本当にExtraordinaryです。どうぞ、長く続けて下さい!Gracias、謝謝、Merci、そして、ありがとうございます!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 こちらより、講演内容を動画にて、ご覧いただけます。

 アメリカよりスザンヌ・フリーン教授(マサチューセッツ工科大学・言語学)が初来日、ヒッポのワークショップ(月1 回・渋谷)に参加されました。フリーン教授が30 年以上、研究を続けてきて分かったこと、それがヒッポのプログラムで実践されていることを知り、自分の眼で実際に見てみたいと来日。当日はマレーシア教育省のプログラムで来日した青少年など300 人近いメンバーに向けてお話をしていだだきました。

◇◆◇ 講演内容詳細はPDFファイルにて「こちら」よりお取出しいただけます ◇◆◇

一覧へ戻る

言語交流研究所へ