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ヒッポの活動を応援してくださっている先生方

脳はどのように言葉を生み出すのか

酒井 邦嘉

( さかい くによし )

東京大学大学院総合文化研究科准教授(言語脳科学)

2009年ひっぽしんぶんNo.45

世界には、何語何語と分けると、多種多様のことばが存在している。ことばの多様さとは、我々に与えられた恵みともいえる。 言語学でよく言われる問いとして、もし火星人が地球上の人間の言語を調べたら?というものがある。きっと、人間はみんな同 じ一つの言語「人間語」を使っていると判断することだろう。

そこには人間のことばがあるだけであり、この仕組みをノーム・チョムスキー(注1)は「普遍文法」と名づけた。人間がことばを自然に使うことができるのも、普遍文法が生得的に脳に備わっているからである。言語は、人間だけが持つ固有の能力であり、言語の本質は、創造的であるということ。これは、文をいくらでも長く創り出すことができ、またことばの組み合わせを変えることによって幾通りもの文ができる構造(統語構造)を持つことで可能になる。私は、MITでチョムスキー博士に出会い、このような人間の言語の多様性を基本原理から解明しようとする言語学もまた、まさに物理そのものと感じた。

言語の脳科学という分野は文系・理系の枠を超えた新しい融合領域である。私自身、生物学、神経科学、言語学等の異分野の研究経験を通して、サイエンスは一つであると確信した。学生の時に出会った「サイエンスは一つのものです。物理学をやるにしても、他の多くの部門の知識が必要です。自分の専門以外のことをちっとも知らなかったために、回り道をして、つまらぬ損をすることは少なくありません。決してフィールドを狭くしてはいけません」という寺田寅彦氏(注2)のことばは、物理学をはじめとするサイエンスを足場にして、言語の問題に挑む自分自身の励みともなった。多様性を研究の視点に持つことで、全く違うように見えることの間に共通性を見いだすのは究極の醍醐味といえる。

また「知識の丸暗記は基本をマスターするうえでは大いに役立つが、さらに上を目指すには知識の本質を理解しなければばらない。知識の本質は、人から教わって得られるものではなく、自分自身が対象と向き合って考え抜くことによって初めて自分のものにすることができる」という囲碁の石井邦生九段のことばにあるように、知識の吸収は大事だけれど、極めていくためには、それを自分で消化し真の理解を求め続けなければいけないと考える。

注1:ノーム・チョムスキー(米・言語学者):ノーム・チョムスキーの提唱する学説を「生成文法理論」という。生成文法とは、人間には生まれつき文法的に正しい文を生成する言語機能があるとするもの。その全人類に共通な言語の源を普遍文法とよぶ。

注2:寺田寅彦:物理学者、随筆家

 
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