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ヒッポの活動を応援してくださっている先生方

ことばを話す脳

岩田 誠

( いわた まこと )

東京女子医科大学名誉教授(神経内科学)
言語交流研究所 理事

2010年ひっぽしんぶんNo.47

私が"ことば"に興味を持つようになったのは、今から約30年前、失語症の患者さんたちに出会うようになってからです。以来、私は臨床医として、多くの患者さんのことばを失うことの重大な苦しみに接してきました。そして次第に"ことば"に対する興味から、それを操る脳のはたらきへの関心と繋がっていきました。

人は何故ことばを必要としたのでしょう。個体間のコミュニケーション、思考の道具、記憶の記録など考えられますが、"ことば"と脳とを直接結びつけることは安直にはいきません。人間にとっての"ことば"というものを考える時、患者さんと向き合う現場の他に、脳の機構に関する医師たち、言語聴覚士や心理学、認知科学、言語学などの異分野の若い研究者たちと自由で活発な議論ができる交流の場があること、それが私の研究にとっての大きな源になってくれています。

脳梗塞にしろ脳の外傷にしろ、失われた脳組織は再生しません。でもリハビリテーションを通して、患者さんの意欲と努力とで相当良くなります。これは脳の言語領域が壊れても、脳の他の仕組みがはたらくようになるからだと思われます。言語の仕組みは元々、脳の左側にあります。失語症の場合、左がダメになったから一生ことばが使えないというわけではなく、言語領域がないとされる右脳や、または失った箇所の周りの組織が代償し、残っている場所、使える場所は、何でも使って新しい仕組みを創りだす能力が人間には備わっている。そのこと自体が、人間本来の素晴らしい可能性なのです。サイエンスでは、こうなるだろうと説明はできても、本当のところはまだわからないことばかりです。ですが、このような患者さんを診ること、日常的な観察から新しい問題を提起するような臨床研究は、患者さんの症状に対して「なぜ?」という問いを発することから始まり、そのことによって、これからの研究の可能性を追求できるものと信じています。(トラカレ講座より)

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