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活動内容

鈴木 淳


鈴木 淳
理論物理学、情報学基礎論/電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授
(一財)言語交流研究所 協力者

⚫︎ヒッポの活動と量子力学

皆さんは小さい原子スケールで成り立つ物理理論である量子力学をご存知でしょうか。

実は2025年は量子力学が誕生して100年という記念の年です。最近だと量子コンピュータに関するニュースも報道されているので、この「量子」というキーワードを耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。以下では、私の研究テーマである量子の世界をほんの少し垣間見て、ヒッポの活動と量子の関係についてお話ししたいと思います。

まず、量子の世界では現実に存在する量子という対象は、観測者が量子を測定をするまで実在的な意味を一義的に割り当てることができません。また、測定の仕方に依存して実在として解釈できる意味が変わることもあります。これは量子力学における文脈依存性とよばれる量子特有の性質の一つです。さらには、測定は不可逆かつ確率的で、測定結果は確率的(ランダム)で毎回異なり、また一度測定してしまうと、相互作用を通して、実在する量子の状態は全く別のものに変わってしまうのも特徴です。

後者の性質はボーアが提唱した相補性原理やハイゼンベルグの不確定性関係とも深く関係し、自然界に存在し目の前にある量子という対象を我々人間は原理的にも正確に知ることができないことを示唆します。ここで、「原理的に」という意味は自然界の法則として許されていないという意味です。

初めてこのような量子の正解の不可思議な性質を聞くと、量子は日常の物理学とはずいぶん異なる振る舞いをする、と思われるのではないでしょうか。ところが、この量子の世界と我々が言語を認識・理解する仕組みと似たような構造があることをヒッポの活動では指摘してます。

例えば、我々が発することばの単語単語ひとつに絶対的な意味が一意に存在し、そのつなぎ方で全体の意味が決定し、曖昧さがないとしたら、どんなにつまらない世界になっていたでしょうか。このような言語体系はコンピュータが理解できるプログラミング言語では当然必要ですが、我々の用いることばの仕組みは全く異なります。

人間のことばの豊かさは、発言する人のそのときの感情や文脈だけでなく、聞く人の受け取り方にも依存して決まっていることを日常的に体験しているのではないでしょうか。この状況は、まさに量子の文脈依存性の構造と同じで、発せられたことば自体には絶対的な実在性がないと言えるのではないでしょうか。

このような量子の世界に興味を持った方はぜひ、「量子力学の冒険」や「部分と全体」にチャレンジしてみてください。特に、部分と全体は量子力学の創設に携わったハイゼンベルグによって書かれた本で、量子論の創設に関する人間ドラマと深い哲学的な考察に魅了される名著です。

⚫︎私の研究とヒッポ

最後に、私の研究について述べさせていただきます。

現在の主な研究対象は量子の世界で情報やデータを科学として取り扱う、量子情報理論です。次世代の技術を実用化するためにも必要となる量子データを解析することを目的とした、量子の世界での情報学や統計学の基礎理論の構築に学際的な研究価値観で取り組んでいます。

上で述べたような量子の世界のおきてにより、量子が持つ情報(=量子データ)は非常に繊細で、サイコロの出た目のようなデータとは異なり、我々は自然界と常に対話をしながら、解析をする必要があります。量子の世界は不思議に満ち溢れており、我々の日常の感覚からは理解できないことが多く、研究しているとますますその奥深さに魅了されております。

私の研究指針の背後には既存の固定概念にとらわれず、多角的なアプローチを試みるというのがあります。子供の頃からヒッポの活動に参加していた私にとって、1つの言語や文化といった固定された価値観でなく、多様な価値観でものごとを見ることが自然と身についており、現在までの研究活動においてもその経験が根幹として活かされてきたと思います。この多様性の重要性についても、ヒッポでは創設時から自然に理解され受け入れられてきたかと思います。

ヒッポの活動は単にことばを科学するだけでなく、多言語ということばやコミュニケーションを目的とした活動を通して様々な文化の違いや異なる価値観を自然に受け入れる力を育て、人を豊かにしてくれるのだと思います。